現状、PSO2一色になりそうです。


by sora_hane
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廃人達の狂想曲~空を舞う策士~

「――はい、これでお終い」
 シュン、と残響と共に光が消える。対戦者となった少年が、重石を載せられたように両肩を押し下げる。
 思い切り沈んだその少年に、アイリは包み込むように微笑みかけた。ポン、と肩に手を乗せて、少年の手にスタンプカードと次のヒントを乗せる――とはいえ、ヒントでも無いが。
「筋は良かった。また何処かで会ったら、楽しい勝負ができると思う――頑張ってね」
「は、はい!」
 慌てて顔を上げた少年がそう言って、少し紅くなった頬で頭を下げる。彼の仲間達――同一行動班の子供達もまた、慌てて頭を下げた。
 そうしてから、仲間内でヒントの紙に目を通す。アイリは音も無く彼らから離れ、去っていく後姿を見送った。近くのベンチに腰を落として、小さく溜息を吐く。
 ――これで、五組目。この場所に繋がるヒント、そんなに難しかったかしら?
 この場所は好きだが、それでも十時頃からずっと待機させられていては、いい加減に飽きてくるという物。他の対戦者たちより、明らかに圧倒的に戦闘数が少ない気がする。
 第一、時間が時間だ。もう十分もすれば――
 と。
「――あ、居た居た! フィル、多分あの人だよー!」
「ここで叫ぶな、馬鹿」
 静寂を吹き飛ばしてくれる陽気な少女の声が響き、直後に静寂へと追い落す冷徹な少年の声が正面から届いてきた。
 まるで正反対な二人が、掌を繋いで近づいてくる。他に四つの足音が響いているが、最も目立つのはやはり先頭の二人だった。
 ――最後の相手には、面白そうな子達が来たね。
 アイリは感情を表に出さないまま、心の中で僅かに笑った。
 少年達が目の前で立ち止まる。アイリは腰掛けていたベンチから、ゆっくりと立ち上がって、彼らへと微笑みかけた。
「何かしら?」
 いつものように、子供達が僅かにアイリの笑顔に目を向けた――今までの五組だけでなく、日常生活でもこういう事は良くあった。自覚こそ無いが、アイリは整った顔立ちをしているらしい。大体の人間が、笑顔を向けると顔を紅くする。
 ただ、先頭の少年は、海底に棲む龍のように、冷たい視線と凍りついた気配を変化させる事は無かった。
 ――面白い子ね、これは。
「『時代や文明の欠片を閉じ込めて、訪れる人に公開する場所』とは、ここの『歴史博物館』で宜しいのでしょうか?」
「えぇ。参加者ね、分かった――時間も無いから、見せ合い無し3vs3で行きましょうか」
「承知しました」
 訥々と、必要事項だけを答える口調。アイリからプロジェクターを受け取りながら、手馴れた動作で其れを起動させる。
 少年が小さく背後を振り返ると、打ち合わせされていた様に、残り五人が背後へと下がった。初めから少年が戦う予定だったらしい。
 ――この中じゃ、一番面白そうね。楽しい戦闘ができると嬉しいけれど。
 アイリも決まっているパーティの準備を終えてから、ゆっくりと少年に笑いかけた。
「準備は出来た。始めましょうか?」
「えぇ――始めましょう」
 余りにも冷徹な、其れでいてはっきりとした返答――勝負しか見ていない、余りにも冷たい瞳。
 面白い勝負になりそうだ。そんな予感をはっきりと抱きながら、アイリはプロジェクターを作動させた。



『トレーナーフィルvsトレーナーアイリ 開始!』

 音が吸い込まれてゆく館内に、開幕の叫びと共に互いの初手ポケが出現する。
 出現の光に包まれて、まるでフィルの影から反り上がって来たように、悪戯小僧の顔をした霊――ゲンガーが出現する。霊・毒タイプの特殊アタッカーだ。
 対して、アイリ側へと生まれたのは、二足歩行の犬――グランブル。特性『威嚇』を有する、ノーマルタイプの物理アタッカー。特性によって、ゲンガーの攻撃力が一段階低下する。
 御互いの初手を出し合って、直後に読み合いがスタートする。相手の一手を如何にして読むか――
 ――……よし。
 数秒の思考の後、フィルは行動を決定した。

 初ターンが動き出す。
 本来なら、ゲンガーの方が数倍早い。だがしかし、先に動いたのはグランブルの方だった。
「――私の方が動きが早い?」
 アイリの疑問が解決される間もなく、グランブルが両腕を振り上げ、同時に無数の石刃を作り出す。岩物理・ストーンエッジ。ゲンガーの紙耐久では、攻撃種族値120から繰り出される一撃を耐え凌げる道理はない。
 だが。飛来した刃は、ゲンガーの懐に収まる事もなく、有らぬ方向へと飛び去って行った。命中率80%の技だ、確かに外れる事もある。
 これに対して、しかし、フィルは即座に舌打ちした。読みは当たったのに、まさか――
『ゲンガーのカウンター!』
 ――まさか、攻撃が外れるなんてな。
 カウンター――相手から受けた物理ダメージの倍のダメージを返す、格闘技。攻撃がHITしなければ、全くもって意味を成さない技だ。
「襷カウンターか。危ない所だったね、全く」
「こちらとしては残念な限りです」
 アイリが楽しげに笑うのに、フィルは不満を露わに呟き返した。
 隠し玉を読まれた以上、もうカウンターは役に立たない。そして、このゲンガーは『カウンター特化』した、余りに特殊なゲンガーだ。存在意義の半分以上を失ったし、相手も同じ轍は踏まないだろう。
 ――となれば。

 2ターン目。
 初めにゲンガーが、遅れてグランブルが。両者のポケモンが光と化して、手元へと帰っていく。仕切り直しだ。
 続いて出現したのは、フィル側に砂を泳ぐ竜――ガブリアス。そしてアイリ側に、風を足場にステップを踏む緑の綿毛――ワタッコ。
 ――ワタッコか。
 高速型のサポーター。攻撃面は下手な進化前ポケモンよりも寂しいが、平均並みの耐久力と『115』の素早さを持つ。そして一つ、以前にも使用された技が、余りに辛い。
 厄介な相手だ、と胸中で息を吐く。通常のガブリアスであれば、然程相手に困るポケモンではないが――このガブリアスに取っては、異常に突破しにくい相手だった。

 3ターン目。
 先手を取ったのは、ガブリアスの方だった。
 ――防御、もしくは特防特化か。
 天を見上げ大地を震わせ、空を称える如くに吼え猛る。刹那に天から舞い降りたのは、幾筋もの流星だった。龍特殊最強技・流星群――基本威力『140』の、絶対的な破壊力を有する技。
 避ける間もなく緑の綿毛が飲み込まれ、着弾する衝撃に飲み込まれていく。けれど、ガブリアスは物理攻撃力は『130』と種族地的に高くはあるが、特殊面は『80』程度。平均的な特殊攻撃力である以上、一撃粉砕とは行かず、ワタッコは体力を四割ほど残して耐え凌いだ。
 攻撃直後、ガブリアスが有する『命の珠』の影響で、体力を一割消失させる。そして同時に、ガブリアスの特殊攻撃力が二段階――半減した。流星群の反動だ。
 ワタッコが瓦礫の下から這い出すのを眺めつつ、アイリが不思議そうに呟いた。
「特殊型?」
「えぇ。物理受けに変えてきた際に、其れを破壊する為の型です。最も、素直に大文字を打つべきだったようですが」
「其れは読みすぎって奴だよ、フィル君――痺れ粉、お返しね」
 にやりと笑ったアイリの前で、ワタッコが両手の綿毛を動かす。ガブリアスを包み込むように揺れ動いた其れは、龍の全身に見えない錘を押し付けた。
 技名・痺れ粉――命中した相手を『麻痺状態』に変化させる技。命中率は75%程度だが、100%麻痺の電磁波と違って、地面タイプに対して、そして特性『蓄電』や『電気エンジン』の影響を受けずに相手を麻痺状態に陥らせる技だ。
 ――さて、麻痺か。これは流石に、不味いかもな。
 麻痺状態になれば、スピードが問答無用で1/4になる。どれだけ最速のポケモンで有ろうが、ほぼ全てのポケモンに先手を取られる。
 更に重要な問題が一つ、だ。ワタッコ相手に其の状態に陥るという事は――

 4ターン目。当然、先手はワタッコ。
「宿木の種」
 両手の綿をふわりと投げるように動かした瞬間、幾つかの種が空へと舞い上がり、ガブリアスへと付着した。HITしたガブリアスの肉体に、小さな種が根を生やす。
 技名・宿木の種――草ポケモンのみが使用できる、植物ならではの凶悪な技。相手を宿木状態へと変化させる、状態異常の名を冠しない状態異常。
 ――やはり、な。
 ワタッコは大抵サポートで使用する事が多いが、宿木の種は同時に攻撃手段ともなりうる技。安定したダメージソースとして、攻撃手段の少ないポケモン達に重宝される。
 後手、ガブリアスに手番が廻る――だがしかし、其の体は大きく痺れて、全く身動きをとらなかった。『麻痺』状態の発動――1/4の確立による行動不能が。
 ――不味い。
 このタイミングで行動停止は、洒落にもならない。
「あら、運が無いわね――不運にも」
 アイリが楽しげに笑った直後、ガブリアスの体から陽光の輝きが飛び出して、ワタッコの体へと纏わりつく――ドレイン。
 宿木状態は、毎ターン終了時に合計HPの1/8ダメージを受け、其のダメージ分相手ポケモンのHPが回復するという物。定数ダメージを毎ターン与え、しかも草タイプ以外の全てに有効であるこの技は、弱点の多い草タイプが持つアドバンテージの一つだった。
 麻痺を叩き込まれた挙句、毎ターン一方的に体力を搾取されるこの状況は、余りにも向こうに有利な戦場だった。
 ――仕方ない。

 5ターン目。
「引くぞ、ガブリアス」
 フィルの選択は、交代だった。宿木状態は交代する事によって効果が消失する、継続される状態異常とは違う物。麻痺状態のガブリアスなど残しておいても早々役には立たないだろうが、無駄死にさせる気は毛頭無い。
 動きの錆付いた鮫龍の変わりに出現したのは、空を泳ぐ鯉――ギャラドス。ゲンガーでは相性が悪い、というかそれ以前に特殊すぎて役に立たない相手が多い。ならば、繰り出すべきはコイツだった。
 正し――
「まぁ、ちょっと軽率すぎたんじゃないかな?」
「ですね」
 フィルの呟きに被せるように、戦場を綿毛が包み込んだ。痺れ粉。空を踊る鯉の体へと雪崩込んだ其れは存在し得ぬ鎖と化して、其の肉体を封殺した。
 ――ストーンエッジ、覚えさせておけば良かったな。
 ガブリアスの技構成に、せめて石刃が存在していれば、特殊が低下していても其の力で押し出す事が許された。よりによって残りが波乗りと地震では話にならない。
 二体が封殺され、一体が殆ど役に立たない。最悪の展開だった。

 6ターン目。
「さて、一旦逃げよっか?」
 トン、と柔らかく地面を蹴って、ワタッコが光へと溶ける。代わりに飛び出してきたのはグランブルだ――威嚇による、間接的な受けを果たそうという所か。ギャラドスが相手で有れば、誰しもが当然行う行動だ。
 最も、フィルのギャラドスは麻痺したまま、動き出そうともしなかったが。無駄に威嚇だけ掛けられてダメージを与える事もできない、一言で言って最悪の状態。
 7ターン目。
「それじゃ、もう一回ワタッコいっとこうかー」
 宣言通り、威嚇だけを掛けたグランブルがワタッコと入れ替わる。ギャラドスのメインである水技読み。完全に手駒に取られ切っている。
 フィルのギャラドスが、今度こそ麻痺から復活し、大きく呼気を吸い込んで――巨大な体内から、横殴りの滝を吐き出した。
 水特殊技・ハイドロポンプ――しかし、命中率が八割である其れは、狙いを外れてワタッコの後方へと流れていった。命中していた所で、対したダメージもなかっただろうが。
「――全く、参りましたよ」
 嘆息したフィルの正面で、しかし、アイリが大きく目を瞠っていた。獲物を見つけた猛禽類の目では無い、育ち行く命を見つめる人間の目で。
「特殊ギャラ? うわぁ、君変な型ばっかり使うねぇ――面白いじゃない」
「ここまで裏目に出る事は滅多に無いのですけどね。流石に通常の型を一体でも、準備しておくべきでした」
「ま、そこは誰でもやっちゃうミスって奴だよ。ほら、続けるよ!」
 アイリが意気揚揚と操作パネルに手を伸ばす。フィルは更に重く肩を落としてから、淡々と操作をこなした。

 8ターン目。
「さて、いっとこうか? アンコール!」
 宣言と同時に、ギャラドスの周囲にスポットライトと紙吹雪が舞い降りた。アンコール――ワタッコが扱う補助技の中で、恐らく最も危険視しなければならない物。
 ――今度はストレートに来たか。
 アンコールを受けたポケモンは、3~7ターンの間、前ターンと同一の行動を余儀なくされる。つまり、ここからはハイドロポンプのみ発動可能――効果が半減する攻撃しか、使えなくなる。
 遅れて、しかし、今度に至っては、ギャラドスは動きすらしなかった――麻痺。この状況を最悪と言わずに何と言おうか。運がないのは事実だが、仮に運が有ったとしても、恐らくは敗色濃厚だっただろう。久しぶりに味わう、完封されていく感覚だ。
「フィルー、もうちょっとやる気だそうよー!」
 リリィが飛ばしてくる応援も、一里先から聞こえてくるような気がした。
 9ターン目。
 ワタッコが飛ばしてきた宿木の種を、フィルは甘んじてギャラドスで受けた。交代しても無駄、という事を理解している為に。
 反撃にギャラドスが飛ばした水流は、急所にこそ入った物の、ワタッコの体力を半分まで削り取るのが限界だった。
 そうして削り取ったダメージも、宿木で回復されていく。
 手詰まりだ。
 10ターン目にギャラドスを下げて、ガブリアスを放り出すも、其れも読んでいたのだろう――ワタッコが飛ばしてきたのは、宿木の種。
 真綿で手足を引き千切り、見えぬ鎖で全身を締め上げていくような戦術に、対抗する手段は、今回、有していなかった。
 ――こうなっては無理、だな。

 11ターン目。
 この試合始まって初めて、ワタッコが攻撃動作を取った。両の綿を体にひきつけるが如く動かして、ガブリアスの命の欠片へと喰らいついていく――草特殊技・ギガドレイン。基本威力60程度しかない技。ワタッコの攻撃力の低さと相まって、対したダメージは飛ばされなかった。が、与えられたダメージの半分――微々たる量だが、ワタッコの体力が回復される。サポート役が使うには、有用な技。もはや、ガブリアスの体力は殆ど残されていなかった。
 最後の力、とばかりに打ち込んだのは――流星群。
「大文字、打たなかったんだ?」
「ギガドレインを持っているとは思ってませんでしたから、火を読んで逃げるかと思っていましたので」
 豪雨が如く落ちてきた流星の雨に飲み込まれたワタッコが、其の体力を残り三割にまで低下させる――けれど、所詮其処までだった。
 珠による反動ダメージ。ターン終了時の宿木ダメージ。
 そして、12ターン目のギガドレインに、全ての体力を吸い尽くされて、ガブリアスは瞼を閉じるようにその命を失った。
 こうして均衡が崩れた時点で――いや、初めから崩壊していたが――負けは見えていた。
 ギャラドスを出現させながら、結末は否応無く予想が出来た。

 13ターン目。
「さぁ、戻ろうか、ワタッコ」
 ふわりと空を踊って、ワタッコが光へと融けていく。次いで現れたのは、四ツ腕の格闘家――カイリキー。グランブルで無いのは、ブルの特殊耐久面が低めである事に為だろうか。
 ギャラドスが凍てつく光を口内に掻き集め、一息に解き放つ――冷凍ビーム。特殊種族値が60しかなく、挙句にタイプ不一致の弱点ですらない技だ。カイリキーの体力は二割削られ、そこで止まった。
「んー、やっぱ持ってたか、其れは」
「ワタッコだけでも殺したかったですけどね。其れは無理、という物ですね」
「そりゃぁね」
 フィルの苦笑に、アイリもまた苦笑で受けた。ここからの展開は、歪められない筋書きに定められる、フィルの敗北、だ。
 ――それでも、最後に一泡吹かせてやら無いとね。

 14ターン目、ギャラドスが後ろへと下がり、盾になるようにゲンガーが飛び出してくる。
 これに、アイリがキョトンと瞳を丸くした。
「あれ、その子捨てちゃうんだ?」
「残しておく意味も無いですから」
 トレーナー達の会話に耳を貸す事も無く、カイリキーがマイペースに行動を開始する。四本の屈強な腕を地上へと叩き付け、地上から幾つ物刃の弾丸を打ち出した――ストーンエッジ。
 ギャラドスにとっての弱点攻撃であり、攻撃力『100』という威力が高い岩技。ゲンガーの紙耐久に襲い掛かるには、鬼とも呼べる威力。不一致である事が幸いして一撃死こそ無かったものの、もはや瀕死に近い状況へと放り込まれた。
「……さて、何をする気かな?」
「吃驚芸、とでも申し上げましょうか」
 瀕死のゲンガーを見て微笑むアイリに、フィルはただ其れだけを答え、十五ターン目の行動を確定させた。
 そして――15ターン目。
 フィルは冷淡に、冷徹に宣言した。
「――大爆発」
 ゲンガーの悪戯顔が、凶悪に、其れでいて愉快気に歪む。刹那に、其の体へと集約するエネルギーに、カイリキーがゾワリと背筋を冷やすのが分かった。
 そうして――ゲンガーの体は、一瞬の内にエネルギーの一部と化して、大気を歪める大爆発の糧となった。
 大爆発――物理攻撃技に於ける、最強最悪のノーマル攻撃技。基本威力『250』という桁違いな大きさを持ち、更に大爆発を受ける側の防御パラメータを『半減』させる能力を有する為、実質的に『500』もの膨大な破壊力を撒き散らす技。
 爆風に飲み込まれたカイリキーは、何の痕跡も残す事無く、一瞬の内に光へと消えた。核工場がメルトダウンを引き起こすに似た光景の中で、アイリが引きつった叫びを上げた。
「うわ、確かに吃驚だ! そのゲンガー、物理特化?」
「はい。初めに襷カウンター、後大爆発。完全な使い捨て特化にした、特異過ぎるゲンガーです」
 初めに物理アタッカーに当て、カウンターで其れを破壊。続いて大爆発、もしくは道連れであの世まで連れて行く、完全な捨て駒要因。
 ゲンガーだからこそ出来る組み合わせ、という事も有るが、何よりも意表を突ける。本来なら、今回も初手でグランブル撃破後、カイリキーの前で爆発を仕掛けられたのだけれど。
 会話の終わりを待つ事無く、フィルの最後の一体、そしてアイリの選択したポケモンが出現する。ギャラドスとグランブル――御互いに威嚇を掛け合って、けれど、麻痺とHP残量の面から、不利なのはこっちだ――まぁ、負けが見えている以上、どうでもいいが。

 そして、16ターン目。
 麻痺しているギャラドスよりも、当然早く、グランブルが動き出す――
「それじゃ、今度は私が最後の吃驚芸、見せてあげるわ――ギガインパクト」
 アイリが呟いた技名に、成る程確かに、と。どこか他人行儀な思考回路で、其の驚きを受け止めていた。
 ゆっくりと。まるで近づいてくる間にすら力を蓄えていくように、緩やかに雄々しく、巨大犬が近づいて――
 至近距離から放たれた、破滅を齎す突進を、ギャラドスは其の身に受け止めた。
 ギガインパクト――『150』という尋常でない威力を有する、ノーマル物理技の切り札。威力の大きさと其れに見合わない九割という命中率の存在によって、攻撃した次のターンは反動で動けなくなるという、破壊光線の物理ver――其れだけに、威力は絶大。
「グランブルは拘り鉢巻を巻いた、攻撃特化の子なんだ。最後の一撃には相応しい技でしょう?」
「そうですね。確かに、いい幕切れだ」
 極化された一撃を前に、ギャラドスが一瞬で光へと消える。全てが失われた戦場で一匹、グランブルだけが存在を鼓舞するように大きく大きく吼え猛っていた。


『トレーナーフィルvsトレーナーアイリ 0-2、アイリの勝利』


 アナウンスを残して、戦闘光が世界から消失する。後ろで子供達が多少騒ぐのは聞き流し、フィルは肩を竦めて、スタンプカードをアイリへと差し出した。
「完敗ですね。完全に読み切られましたよ、全く」
「ま、年季の差って所かな?」
 決して嫌味には見えない笑みで、アイリがニヤリと微笑んだ。確かに、年季の差と言って良いほどの完敗だった。其処については、何一つ言い訳する事すら許されない。ゲンガー・ギャラドス・ガブリアス。どれもこれも一流品のポケモンを使用して――使い方が酷すぎるのは置いておくとして――ここまでの敗北を喫したのだから。
 ――意表を突く事に特化しすぎても駄目、って事かな。
「ただ、悪くはなかった――面白かった。君と次に合い見まえる時が楽しみだよ」
 アイリはそう言って、ポン、と判を付いたカード、及びヒントの紙をフィルの手元へと投げてきた。
 ひらりと空を滑る其の二枚を指で受け取って、フィルもまた軽く笑い返した。
「何時出会えるかは分かりませんけどね。次に闘える時を、こちらも楽しみにさせて頂きますよ」
「其の意気だよ。それじゃ、急いで最後のポイントに向かいなさいな。あんまり時間残ってないからね」
「え? 夕方まで、って事じゃないの?」
 背後でリリィが叫ぶのが聞こえた。アイリがゆっくりと頭を振り返す間に、ヒントの紙を開いて、内容を確認する――
「こっから学校まで戻ってれば、もうそんな時刻じゃないかしら?」
「『オリエンテーリングは帰り着くまでがオリエンテーリングです』だとさ」
 アイリの言葉に合わせて、フィルは淡々と其の文面を読み上げた。
 まぁ、早めに帰った所で益も無いから、のんびりと歩いて帰ればいいが――
「時間内に帰れれば簡単な賞品も出るらしいから、急いで帰りなよー」
「?」
 フィルは反射的にアイリの方を振り返っていた。彼女が視線を受けて、怪訝そうに首を傾げる。
「あれ、聞いてなかった? 担任から情報下りてると思ってたけど」
「いえ、初耳です。私達のクラスでは、はっきりと無いと仰られましたが」
「あー。君ら、ポケモンクラスの子達でしょ?」
 ――ポケモンクラスってなんだ……。
 分からない言葉ながら、フィルは即座に頷いた。つまりは、廃人の集合体という所だろうから。
「一クラスだけ、明らかに強い所が有るからって事で、其のクラスだけは賞品が有る事を隠しておいたって聞いてるわ。本気で戦われると戦力差が大きすぎるからって」
 ――……納得できなくも無い理論だ。
 本気で行くなら、確実にパーティは今の物では無い。使い慣れた連中を使用していた筈だった。そうなれば、今日のような酷い結果にはならなかった――と思いたい。
「ま、とりあえず急いでいきなさい? あの女の子二人を残して、他の子達は行っちゃったよ?」
 其の言葉に振り向いてみる。エントランスの外で、リリィが足踏みをして、メイがおどおどとフィルの様子を伺っている以外――あの三人の姿は何処にもなかった。
 ――……つくづくいい性格だ。
「そうですね、急ぎます。有り難うございました」
 胸中で舌打ちしながら、フィルも彼女らの下へと駆け出した。


 先行する三人が、結局スタンプは全てフィルとリリィとメイに集中している事に気が付いたのは、校門を潜ってからだった。




 ――後書き。
 狂想曲『空を舞う策士』読了頂きまして、本当に有り難うございます。もっの凄い間お待たせしました――見捨てられてても文句言えない位に;
 これからは多分、更に更に遅くなっていきそうです……時間が無い、というか、マジェの方だけで手一杯すぎると言うか……それでも、マイペースに書いては行きたいと思いますので、どうか見捨てないで下さいorz
 これと、後は最後の一話(戦闘無し)でオリエンテーリング編終了です。下手なキャラ付けをしたせいか、戦闘そのものを描くより其の側面を描く方に力が篭っちゃってる気がして仕方ないです……これからはもう少し、戦闘面を重要視していきたいです; フルログばっかり残ってますし;
 では、本日はこれにて失礼します。
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by sora_hane | 2009-01-22 20:49 | ポケモンバトル小説