現状、PSO2一色になりそうです。


by sora_hane
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プレストーリー

 ※上記記事を確認されてから、其れでもよければ、どうぞ。



 ――ドンッ!
 鼓膜を打つ、深い衝撃。突き出した掌の先が筋肉へと埋まり、衝撃を与えた音。
 打ち出した拳の先で、熊が血飛沫を上げた。体毛が描く円を腹部に作った其れが、白目を剥いて足元へと崩れ落ちる。
「せぇのっ、吹っ飛べぇっ!!」
「ぐぎゃ!」
 微かに遅れて、奇妙な悲鳴。振り返ってみれば、足元で崩れる熊と同種の巨体が大地を転がって、ピクリとも動かなくなっていた。其れを前に立つ、茶色の毛を持つ少女。白い毛を纏った首回りに青のスカーフを巻いて、頭に愛らしい空色のリボンを付けている。
 彼女は此方の視線に気が付くと、楽しげに笑って、片方の前足を上げた。
「フィルー、こっちは終わったよー!」
「見れば分かるよ、リリィ」
 気の抜けた笑顔の少女に呆れながら、ポツポツと言葉を返す。
 そうして、足元に崩れ落ちた生物を見下しながら、空色の毛を持つ少年――フィルは、自分と相棒以外に存在するもう一人へと視線を向けた。
 数歩ほど離れた場所で立ち尽くす、最期の標的へと。
「じゃ、終わりにしよっか」
「こ、この糞餓鬼がァァッ!!」
 憤怒に染まった咆哮。強大な腕が振り被られ、彼自身より倍以上も巨大な体が、津波の如く押し寄せてくる――
 が、最早遅すぎる。フィルは掌を引いて、其の先に力を込めた。
「死に晒せ――」
 熊が無防備に、間合いへ踏み込んでくる――彼が有する間合いの内側へ。
 地を蹴り、熊の懐へ。腕が落ちる前に踏み込み、攻撃が放たれる前に左拳を捻じ込む。
「――ギ」
 突撃の勢いをそのまま返すカウンター。鳩尾に埋まった一撃に、頭上からうめき声。
 そうして、続きは言わせなかった。
「――吹き飛べ」
 集めていた力を解放。掌が熱を持ち、そうして爆発に似た衝撃を生み出し、標的の体を駆けてきた方角へと吹き飛ばす。悲鳴も無く、土煙を上げて転がっていく其れは、ただ無様な姿でしかなかった。
「相変わらず、発剄って凄い威力だね。あんなに吹っ飛ぶんだ」
 隣からリリィの声。何時の間にか来ていたらしい。
 ストレートな感嘆の声に、フィルは静かに肩を竦めた。
「直撃しただけ。其れより、さっさと捕えて帰るよ」
「はーい」
 リリィの軽やかな返事。ロープを銜えて駆け出して行く相棒を見送って、フィルもまたロープを取った。
 と、
「……どう、して……リオ、ル……と、イーブ、イ、如きに……」
 息も絶え絶えに、驚愕と絶望が覗く声で地に伏せる熊――リングマが呟く。其の顔に蹴りを入れて沈黙させながら、フィルは静かに返答した。
「そうして見下すから」




「リングマ盗賊団ノ確保、有難ウゴザイマス!」
 ギルド内に有る掲示板の前で、歓声と共にジバコイルが笑顔を浮かべる。上司の喜びの声に、取り巻きのコイル達が同意するように笑った。
 リリィは気にしないで、とばかりに首を降った。
「こんなのお安い御用! 私達『spin』に任せておいて!」
「とはいえ、依頼の全部を丸投げされても敵わないけどね」
「其処マデ間抜ケデハナイノデゴ安心下サイ、流石ニ。ソレデハ、コレガ――」
 冷や汗を流したジバコイルが、そっと手を伸ばしてくる。フィルは無言で其の手から、青いグミと橙グミ、そして二百の金を受け取った――盗賊団を壊滅させる、依頼の報酬。
 まぁ、依頼金の九割をギルドに上前跳ねられた後だが。
「イツモゴ協力アリガトウゴザイマス!! ソレデハ!」
 機械的な声で爽やかに別れを言って、ジバコイル達が去っていく。其の後姿が消えぬ間に、リリィがそっと隣に身を寄せてきた。
 そうして、押し殺した声でポツリと、
「依頼する仕事殆ど丸投げしてるよね、あの人達」
「情報収集してるから、八割程度で収まってるよ」
「スイマセン、モット努力シマス……」
 聞こえてしまったらしい。リリィがギクリと肩を震わせた。そうして、ジバコイル達が涙と共に歩き去っていくのを、冷や汗と共に見送る。
 其の様子を隣で眺め、フィルは静かに苦笑した。つくづくと、素直過ぎる少女だ。本心をストレートに出すのは、彼女が生まれ持った性分なのか、育ちの影響なのか――
 ――性分、なんだろうな。現状に適応していける力の。
 内心で答えを出し、意識を現世に向ける。ジバコイル達が去った後も冷や汗を拭えず、眼の端に雫を溜めて玄関を眺める少女は、不意に振り向いて来ると、フィルの胸元を掴んで、流れ落ちる涙と同じ勢いで声を上げた。
「ね、ねぇ、フィル! ど、どうしよう?! 依頼人さんに失礼な事しちゃったって、そんな事がペラップの耳に入っちゃったら――」
「はいはい、落ち着く。わざわざ彼が話すような真似をすると思えないから、大丈夫」
 リリィの言葉を止めて、彼女の頭に手を置く。何度か撫でて、心を平静に保たせる。
 柔らかい毛の感触を堪能していると、彼女の方も昂ぶっていた気が落ち着いたのか、瞳の端から流れ出す雫が勢いを失くした。そうして、新たな言葉をポツリと紡ぐ。
「そ、そうかな……けど、でも」
「今回の件は、ジバコイル達が一度取り逃がしての依頼だったからね。わざわざ自分の恥ずかしいミス、人に喜んで話すと思う?」
「……う、うん。それも、そうだよね、きっと」
「そ、大丈夫。ほら、そろそろ食堂に行こう? 晩御飯の時間だよ」
 ぽん、と最期に耳に触れてから、壁際を指差す。崖を掘り進んで作られたギルド内に、水平線に触れる太陽の光が穏やかに差し込む光景を。
 リリィはフィルの指差した方を見、そうして、
「え? わっ、もうこんな時間になってたの?! ジアオに食べられる前に急がないとッ! フィル、急ごッ!」
 ギルド内で1、2を争う大食いであるドゴームの名を叫んで、一気に駆け出した。其の横顔に先ほど見せた色は無い。
 けれど、今し方見せた怯え――『見捨てられるという恐怖』に怯える、臆病な心。其れが、リリィの育ちの中で身に付けてしまった特性だ。
 出会った当初に比べれば、ずっと明るくなった。それでも染み付いてしまった性格は、容易く消えはしないらしい。彼女自身が目指す夢を叶えるのは、相当先になりそうだ。
 ――出会った当初、か。
 ふと、フィルは思考を止めて、意識を記憶へと動かした。
 紅の輝きが泡沫として煌く幻想的な光景と、波飛沫の音をすり抜けた、現世へと呼び戻す少女の泣き声に――
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by sora_hane | 2010-05-20 20:04 | ポケダン小説