現状、PSO2一色になりそうです。


by sora_hane
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カテゴリ:小説( 15 )

TOP――物語の休息場

*この記事は管理人『ソラハネ』が書いてきた小説を紹介するTOP記事です。追記のリンクから其々の小説記事へ飛べるようになっています。通常最新記事はこの下に存在しています。

物語達
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by sora_hane | 2011-12-31 23:59 | 小説

投稿完了!

 さて。書き上げた小説をマジェにもっかい投稿した所で――
 寝ます。眠い。
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by sora_hane | 2010-06-23 00:13 | 小説

 ――ふざけるな! 足りると思うのか、この程度で! この程度壊しただけで、何を!

 望みは、時に憤怒へ変わり、

 ――イヤダイヤダイヤダイヤダ! 消エタクナイ、消エタクナイ、オレハマダ、戻リタクナイ!

 想いは、時に酷く無力で。

 ――人間ハ嫌イ……私達ヲ、アンナ場所ニ閉ジ込メタ! 同ジ事シテヤル、何ガ有ッテモ復讐シテヤル!

 嫌悪は、時に命を塞いで、

 ――折角、外に出られたんだ? 楽しませて貰うぜ、こいつの体使ってな!

 歓喜は、時に強欲と化す。

 ――怨ミ足リナイ……マダ、オ前ガ生キテル……死ンデモ、マダ、足リナイ!

 復讐は、時に己を殺し、

 ――恵まれた奴にはわかんねぇよ、俺達の苦しみは! 分かったつもりになってんじゃねぇよ、仲間を食った事も無い野郎がよ!

 羨望は、時に全てを恨む。

 ――僕らに、僕らの意思は存在しなかった。意思なんて、持ってた方が辛いから。

 諦観は、時に意味を蝕み、

 ――なぁ。俺達は、何のために生まれたんだ? 其れすらも、どうでもいい――だから、全部終らせてやる。

 絶望は、時に虚無へと墜ちる。

 無数の感情が世界に生まれ、無数の命が意味を探し、彷徨い歩く――
 されど、全ての命が意味を持って、若しくは意味を手に入れて生きられる道理も無い。
 願いを有しながら、されど現実という壁に封じられる者が居る。
 与えられた幸福を享受しながら、全てを怨み続ける者も居る。
 意思を持ちながら封じられし者達は、全てを奪われた箱庭の内側で生きる意味を求める。

 生まれる命全てが望まれた世界ではない。
 されど、不条理に抑圧された世界から、抑圧されし者達が解放された時――
 世界は、如何なる姿を見せるのか?




 そして――

 ――有難う、僕を見つけてくれて!

 幸福は、時に――








『innocent bird――世界を渡る幸鳥』










 ――ごめん、ね。フロー、リアン。



 残酷だ。

言い訳兼後書き
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by sora_hane | 2009-08-16 20:49 | 小説

花束を纏う子供達

 こんばんは。先日は大阪へ帰還した足で晩飯に『チェーン店』のラーメン食いに行った『何しに九州行ってんだテメ』と突っ込まれかねない事やらかしましたw 時間的に向こうで食えなかったんだ……残念orz
 挙句の果てにキャンドルナイトの説明すら置けてないしな! もう今日でイベント終わりだよ!ww

 今回の更新記事は、イコさんが描かれた一つの絵を紹介する為の更新です。今回の絵は、私の小説に登場する『シェイ・シェミ』というキャラクターについて描かれた物なのです。
 元々はイコさんが描かれた『シェイミ擬人化』絵をモチーフに作ったキャラなのですが、改めてシェイ・シェミとして二人を描いて頂けたのです。
 二人の性格を良く現してる笑顔で、また物語と相まって、相応しすぎる絵と感じます。イコさん、本当にありがとうございます!
 追記から二人の笑顔が見れますので、宜しければイコさんの力作、ご覧下さい^^

シェイ・ミ!(イコさん作タイトル)
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by sora_hane | 2009-07-07 22:06 | 小説

night hawk's dream

 金銀リメイクに一旦押し流されましたが、こちらも絶対に紹介したかった唄なので、負けじと紹介。

 Do As Infinity/夜鷹の夢

 この曲はゾイドジェネシスのOPとして見つけたのです(スパロボKの影響です)が、この曲ほどアニメ版と原曲で曲の感じが変化する物も無いのでは無いでしょうか。
 余りにも聞き惚れて、今回は唄物小説まで書き上げてしまった有様です。既にネット上のブログに別の方がこの曲を素に書かれていたりしますが、其れとは別の、自分なりの世界観で書き上げてみました。
 良ければ続きからどうぞ。
(これはPVでは有りません。ニコニコの職人が作成した物です。この映像が自分にとっての止めになりました)



『ヨタカノユメ』
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by sora_hane | 2009-05-09 11:08 | 小説

黒歴史発掘ー。

 こんばんは。今回の更新はPC内のデータから、ちょっと面白い物を見つけたので、紹介してみようという話です。
 少なくとも東京出立前日に更新を掛けるべき内容では有りません。

 ソラハネがリュースとしてマジェで書いている作品の中に、唄――実際に存在する様々な歌詞を元にして、テイルズキャラの小説を作っている作品群が有るのですが、それの原型のような作品を、たまたまPCデータ内から発見しまして。
 今回の作品は、弟が自由に考えた『詩』を元にして作り上げた作品で、歌詞を元に物語を紡ぐスタンスの原型に近いと思います。多分、唄を元に書き始めたのは、この作品が原因なのかも知れません。

 正直黒歴史に近いのですが、昔に有って今無くなった、自分なりの物語が存在している気がして、自戒の意味でもネットに公開してみよう、と考えました。
 本来なら山ほど手直ししたい部分が有るのですが、あえて手直し無しで行くとします。
 それでは、続きからどうぞ。ちなみにこのタイトルは、後に弟が弟なりにソラハネの小説を書き換えた時のタイトルであり、私は名無しのままに書いてたので、其れを使用します。

 ちなみに、この物語の元ネタになった詩はこちら。

 たかが一回転んだ位じゃ僕の人生は変わらない。
 どんなレッテルを張られても、何回けつまづいても、止めやしないさ。
 そう、僕がそこにあることに意味があるから。

『エラーメール』
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by sora_hane | 2009-03-19 22:18 | 小説
「――ぅ?」
 眼球に突き刺さる朝日に、リノウは腕で眼を覆った。それから、ふと目が覚めた。何度か瞬きを繰り返して、体を起こす。ふわぁ、と大きく欠伸を零して、左右を見る。真白の壁に、最低限の調度品、木彫りのドア。部屋の中央にベットが置かれている程度で、他に大した物も無い。間違ってもフィルト家にある部屋じゃなかった。
 リノウはぼんやりと思考を巡らせた。どうしてこんな場所に居るのかを思い出す為に。
 と。
「リノウ、起きてる?」
 呼び声に続いて、ドアノブが回る音。ドアを開けて入ってきた女性を見て、リノウは更に首を傾げた。
「先生? ここ、どこ?」
 入ってきた恩師に、挨拶よりも早く問い掛ける。昨日何が有ったのか、全然思い出せない。
 すると、彼女は閉じていたカーテンを全開にしてから、
「覚えてない? 昨日、アクト君が尋ねてきた事や、リガードさんがした事」
「やったこ――」
 疑問を呟いた途中で、リノウははっと思い出した。全てを。
 実の両親に売られた事。両親が全ての犯人だった事。アクトが助けに来てくれた事――全て。
「……そっか。夢じゃ無いんだ、やっぱり」
 少し悲しく思う。けれど涙は出なかった。昨日、アクトに抱き締められて、眠るまでずっと泣き続けたから。悲しみを全部彼が受け止めてくれたから。
「そういえば先生、アクトは?」
 きょろきょろと視線を彷徨わせてから、呟く。色々お礼も言いたいし、旅の準備についても聞きたい事があるから。
 すると、恩師は一枚の紙を取り出した。
「アクト君の手紙」
 手紙を受け取って、首を傾げる。一緒に旅立つ筈なのに、どうして手紙を書く必要があるのか。
 ――なんだろ?
 訳が分からぬまま、リノウは視線を落とした。丁寧に書かれた文字列に、ゆっくりと目を通していく。その間、フィーナは何も言わずに、ずっとリノウの隣に座っていた。

 手紙を最後の一字一句まで読み終えた後で、リノウはポツリと、言葉を零した。
「こんなの、無いよ――」
 呟いた声が、馬鹿みたいに震えていた。昨日泣き喚いたばかりなのに、涙が勝手に溢れ出してくる。涙を止める事が、全くできない。
 涙を乱暴に拭ってから、リノウはもう一度、手紙を睨みつけた。
『リノウはもう休んでいて。これ以上、つらい世界を知る必要は無いから』
 アクトが手紙の中に書き記した、短い一文。それは彼なりの優しさかも知れないけれど、死刑宣告を受けた気分になった。どれだけ言葉を変えたとしても、それは旅人になるな、という言葉だから。
「アクト、ボクを、連れてってくれるって、言ったのに――」
「それがリノウの為だって、アクト君は思ったんでしょう」
 落ち着き払ったフィーナの声。反射的に、リノウは彼女を睨みつけていた。
「何で、何で! どうして!?」
 八つ当たりだって思ったけれど、聞かずには居られなかった。納得できる筈が無かった。
 恩師は感情を覗かせない瞳で、真っ直ぐに見つめてきた。
「書いてある言葉通りだと思うわ。アクト君は、リノウよりも遥かに深い闇を歩いてる。見せて貰ったからね、ブルーシーカーの証明。あの若さでブルーシーカーよ? 生半可なシーカーを超える能力を得ようと思ったら、まともな人生じゃ間に合う訳無いわ。だからこそ、リノウにはついて来て欲しくないのでしょう。地獄をあなたに見せたくないから」
 冷静に説明されて、頭では納得できた。アクトとは少しの間だったけど、ずっと一緒に居たのだから、彼がそういう人間だって事は分かっている。彼の優しさだって事も分かった。
 でも、心は納得しなかった。納得したくなかった。
「先生。アクトは今、どこにいるの?」
「今頃、連絡船の出港を待ってるんじゃないかしら――会いに行くつもり?」
 リノウは即座に頷いた。他にする事も思い浮かばないから。できる事も見つからないから。
「アクト君は、リノウに残れって言ったのよ? 彼の気持ちを無視するの?」
「じゃぁ、ボクの気持ちはどうなるの? 旅に出たい、っていうボクの気持ちは、無視されても良いの?」
 涙混じりに呟いた途端、フィーナが一瞬言葉に詰まる。その間に寝間着を全て脱ぎ捨てて、枕元にあったワンピースを頭から一気に着込む。
 例え、アクトが心配してくれたのだとしても、納得できる訳がなかった。旅に出たいのは、どうしようもない想いだから。
「なら、アクト君に断られたら? 絶対について来るな、ってアクト君から断られたとして、それでもリノウは外に行きたい?」
 あくまでも冷たく、冷徹なフィーナの声。リノウは涙を拭って、心から咆哮した。
「アクトに迷惑だって言われても、ボクが外に出たいのは変わってないんだ! 外に行くって言うのは、ボク自身が決めたんだ!」
 アクトに止められても、誰に止められても。どんな事があったとしても。それだけは、絶対に止めない事だから。
 ブーツを履いて、ベットから立ち上がる。余計な事を考える暇はない。急がないと、アクトが先に出て行ってしまうから。
 リノウは開きっぱなしだったドアから外へ飛び出した。

「やっ」
 ――ガン。
 そうして頭からすっ転んだ。余りにも気の抜けた呼び声と、軽々しく右手を上げてきた少年を見た瞬間に。
 両手を床についたまま、頭を上げる。呆然とした脳裏に、あはは、と陽気な笑い声が染み込んでくる。
「ねぼすけだねー。連絡船の出港まで、もう二時間もないよ」
 声の主は穏やかに、至極当然とばかりにオレンジジュースを飲んでいる。リビングの中、ソファーに腰掛けて、楽しげに笑いながら。ここに居る事がおかしくないと言外に示すように。
 明らかに居る筈が無いその少年の名を、リノウは思考停止した頭で、辛うじて呟いた。
「ア、クト……?」
「ん、どうかした? まだ寝ぼけてる? ミルクでも飲んで、目を覚ましなよ。あのバケツみたいな量は無いけどさ」
 そう言いながら、彼は瓶を一本投げてきた。ミルクが入った冷たい瓶。話し方と良い、内容といい、確かに彼だった。
 けれど、彼はもう出て行った筈では無かったのか――
 その思考の狭間に、後から声が飛んできた。
「それで、アクト君。最終テストの結果はどうだったのかな?」
 リノウの隣を抜けながらフィーナが言った事に、リノウは更に訳が分からなくなった。混乱した脳裏の中で、唯一聞き取れた言葉を、鸚鵡返しで問い返す。
「テ、スト?」
「そ、テスト。そういう事だったわね、アクト君?」
「本当について来れるかどうかを試す為の、ね」
 彼はジュースを一息に飲み干してから、見つめてきた。昨日、レストでアクトが見せた、心をも見透かしそうな鋭い眼で。
「昨日リノウは地獄を見て、今日は俺に見捨てられて、精神的にかなり沈んだ筈。その地獄に落ちてなお、前に歩き出せるかどうか。一人になったとしても、旅人として生きていきたいと思うのか。それを聞きたかったんだ」
 ――……っていう事は。
 座り込んだまま、彼の言葉を何度も反芻する。少しずつ理解していく中で、とりあえず思い浮かんだ疑問を口にした。
「それじゃ、さっきの手紙は、嘘、だったの?」
「そゆ事」
 アクトの軽いウインク。言葉遊びをしている時に似た、楽しそうな笑顔で。
 彼は表情を、ほんの微かに引き締めた。
 楽しげに――嬉しそうに笑ったまま、穏やかな声で告げてくる。
「さぁ、これが最後だよ。もう一度、俺は聞きたい」

 言い切って、アクトが腰を上げる。部屋の中をゆっくりと歩きながら、説明口調で話し掛けてくる。
「ここに残れば、穏やかな生活ができる。フィーナさんも、リノウ一人受け入れるだけの余裕は有るって言ってくれてる。ここに残っていれば、危険な目に会う事も無く、穏やかな日々が送れる」
 彼が伝えるのは、確定された事実だった。一々言うまでも無い、分かりきった話。けれど、アクトは真剣な表情で、それを伝えてきた。
 アクトじゃないけど、続く言葉はリノウにも分かった。
「それを全部蹴ってなお、リノウは、シーカーの旅についてくる覚悟はある?」
 ――やっぱり、そうだよね。
 レストで彼から尋ねられた言葉より、遥かに重たい声に聞こえた。覚悟を決めろ、というのだから。
 だけど。
「アクト、それは答えを分かってて聞いてるよね?」
 立ち上がりながら、リノウは心から笑いかけた。彼も、心から楽しそうに笑ってくれた。

 穏やかな陽光が照りつける港街を、少年と少女が歩いていく。石畳の道を笑顔で歩く二人の会話や足音が、朝の街道に暖かく響き渡った。

あとがき
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by sora_hane | 2008-08-30 02:06 | 小説
 ――さて、まずは。
 足元のガラスを踏み壊しながら、室内に視線を彷徨わせる。
 この屋敷に来た時に案内された応接間の数倍は巨大な部屋だ。中央にリノウが寝かされていて、館側に人間達がいる。長机に座っているのは、リガード夫妻とジョグを含めて五人。驚愕と恐怖が混ざった顔をしていたが、リガードだけは驚きながらも笑っている。
 同時に、標的達の奥にある扉から、執事やメイドが雪崩れ込んで来ている。部屋の外にでも、非常時の為に待機させておいたのだろう。一人居るフルアーマーは、体格や持っている大剣からして、グロウに間違い無さそうだ。アクトは入り込んでくる人間達は無視して、先にリノウを振り返る。
「まだ壊されて無いみたいで何よりだけど、体の方は大丈夫?」
「う、ぅん。う、ご、きにく、い……」
 声が変なのはさっきので分かったが、動きが余りにも鈍い。麻痺薬でも飲まされたか。
「リノウ、これ舐めておいて」
 警戒は続けつつ、リノウに飴状の薬を手渡す。彼女は少し躊躇ってから、薬を口の中に入れた。二度ほど嘗めてから、少女が呟いた。
「苦、いよ……アク、ト」
 情けない顔になったリノウに、軽く肩を竦めて告げる。
「文句言えるんなら大丈夫。我慢して飲み込むように」
「う、ん……あ、りが、と。来、て、くれ、て」
「気にしないで。今は先に体治す事だけ考えて」
 小声で答えたリノウの頭を軽く撫でてから、足を前に踏み出して、その場に集まった人間達を改めて見つめなおした。
 飛び込んできた執事とメイドの数は、五十前後。一様に剣やナイフを手にしている。標的達を守るように人壁を形成していた。その守護する内側に、残りのターゲットが居る。
 と。その壁の向こうで、誰かが拍手を打ち鳴らした。メイド達の壁が僅かに動いて、その人物の顔だけ見えるようになる。リガードだ。
「いやはやアクト君、驚いたよ。事件を解決させたのなら、もう帰ってくれても良かったのだがね。どうしてここに飛び込んで来た? というより、どこから気がついた? いや、むしろここに何をしに来た?」
 声の調子は穏やかだが、そこに優しい老紳士の空気は無い。背筋を凍らせる敵意を放ってくるだけだ。
 単純な事ですよ、と前置きしてから、アクトはゆっくりとした口調で告げた。
「仕事を終わらせに来ただけですよ。この連続誘拐事件を探って来い、って事で。ストラグル本国にいる、別人の依頼でね。当事者の皆殺しも考えてたんで、この場合はリノウ以外、皆殺しですね」
「成る程成る程。では、こちらに送られてくる筈だったライアが来なくなったのも、偶然では無いのかね?」
 窮鼠が噛み付いてくる様子を、象が見下ろすような表情だ。相当余裕を感じているらしい。
 ――ま、時間をかけてくれるなら、こっちとしても有り難い話だけど。
「ご想像の通りです。ライアの身辺を整理してから、確信の上で殺しました――彼も、この三文芝居の役者だったのでしょう?」
 リガードが楽しげに笑う。その笑顔が正解だ、と告げていた。
「彼が幾度もこの街に足を運んでいた事は、こちらで調べがついています。それは恐らく、打ち合わせだったのでしょう。初日のあなた方の発言からも窺えましたからね。私が『ライア』の名前をあげる前に、グロウさんが彼の名前を知っていた。シークスの返答はグリーンシーカーを送る、という文面だった筈なのに」
 そう。初日、ロブには名前を教えたが、フィルト家では一切その名を発言していない。にもかかわらず、グロウがその名を呼んだ瞬間から、目星を付ける事ができた。
「は――やれやれ、俺も馬鹿になったもんだねぇ」
 人壁の中から、男の――グロウの自嘲する声が上がる。リガードが軽く肩を竦めた。
「そこはこちらのミスだったな。だが、それだけではグロウさんだけが犯人だと判断もできたんじゃないのか? どうやってここだと分かったんだね?」
「細かい点で言えば、幾つか有ります。ジョグさんの執務室を見た瞬間に、癒着を考えましたし。貴族が来る前日か当日に少女が消えているのも、十分怪しむ点でした。彼らがここに集まっているのは想像できましたから。ただ、最大の確信を得たのは今日の事です」

「今日?」
 虚を突かれたのか、リガードの表情が間の抜けた物に変わる。アクトは含み笑いを浮かべながら、えぇ、と頷いた。
「あなた方が、最後の詰めに使おうとしていた道筋。犯人役の人間達は、下水道のマンホールまで逃げて行ったんです――その手前に『雨水排水路のマンホール』があるにも関わらず。それを使っても『出口はほぼ同じ場所にある』のに」
 グロウが用意していた地図にも、はっきりと示されていた事実。ただ逃げる事を考えるなら、明らかにあの中に逃げ込めば早かった。
「彼らの足であれば、前もってマンホールを空けておけば、ギリギリ姿を見られずに逃げ込めた筈。空けておかずとも、施錠されていた訳じゃない。一人か二人は逃げ込む事ができた。なのに、あえて遠くにある下水道へと彼らは向かった。どうして?」
 問いかけて、言葉を切る。答えないリガードの代わりに、最後の答えを口にする。
「彼らは下水道から逃げなければならなかったから。つまり、彼らは始めから犯人として捕まって、逃走経路に下水道を使っていたと思い込ませる為の存在だった。雨水排水路には、フィルト家の領内という出口があるから、万が一にでもフィルト家に疑いを持たせる訳には行かなかった。違いますか?」
「――私達が慎重になりすぎた、という事か。そんな所に気がつくとはね。駆け出しとは思えない洞察力だな、アクト君」
 人壁の中で俯き、リガードが哄笑をこぼす。狂ったピエロを思わせる、狂気的な笑い声で。リノウはおろか、執事やメイドすら顔色を悪くする中で、リガードを直視し続ける。
 彼は暫く笑い続けると、唐突に顔を上げた。チシャ猫のように歪んだ笑顔だ。
「面白い。実に面白いじゃないか、アクト君。その洞察力は素晴らしい」
「誉め言葉は素直に受け取りましょう。それで、後に続く言葉は何ですか?」
「君なら聞くまでも無いんじゃないのかね?」
 リガードはそう言って腕を伸ばし、指を鳴らした。途端、壁になっていた執事やメイドの気配が変わる。
 アクトは何も言わずに、リノウの傍まで後に下がった。
「アクト君。君ほど頭のいい人間なら、この後どうなるか分かるだろう。私達は君を殺す事ができる。生きたまま手足をもいで、目玉を抉って、腸を引き出して、脳味噌をぶちまける。リノウは予定通り壊した後で、君と同じ方法で殺す。この死は不可避だという事は分かる筈だ。術は使えないとグロウさんから聞いたからね」
 わざわざ確認されるまでも無い事だ。だが、彼はあえて強調した。続く言葉は、言われるまでもなかった。
「だが、君のその洞察力は惜しい。だから、君に問いたい。私の下に来る気はないかね? 君が調べた通り、私は貴族に顔が効く。出世するには一番の早道だと思うが。金銭面でもサポートしよう。今、殺された貴族の事も目を瞑る。だから、その依頼を破棄するつもりは無いか?」
 ――まぁ、そう来るよね。
 リガードの発言に、アクトは嘆息を零した。余りにも予想通りだと、聞いていて哀しさすら覚えてくる。
 が、余りにも魅力的な提案だ。金銭面でのサポート、レッド以上の地位。底辺に居る子供に送られるプレゼントとしては、破格にも程がある。レッドが受け取らない理由など無い。
「魅力的な提案です。では、これはもう必要ありませんね」
 彼と同じ笑みを口元に浮かべ、懐に手を入れ、目当ての物を抜き出す。レッドシーカーである事を示すカードを
「ア、クト……な、にを?」
 後から、震える声でリノウが言う。アクトは答えず、月光の中にそれを示して、両手でカードを摘み上げ――引き裂いた。
 リノウが絶句するのが、呼吸から分かる。アクトは彼女を振り返らずに、残骸を後へ投げ捨てた。
 リガードが人垣の中で笑みを濃くした。執事達から溢れていた敵意も消えた。
「そうか。嬉しいよ、アクト君。さぁ、リノウの前から」
「その前に、三つほどお伝えしておきます」
 嬉々として言うリガードの機先を制し、アクトは指を三本立てた。視線だけで問い掛けてきたリガードに、まず一つ目の指を閉じる。
「後腐れ無いように言っておきますが、私はファルシークです。初日、グロウさんが指摘した通りに、ね」
「けっ。マジでそうだったのかよ、テメェ」
 人垣の中で、グロウが忌々しそうに吐き捨てる。だが、リガードは構わずに微笑むだけだった。
「今となっては構わないさ。君が地位を望むなら、無論シーカーの地位は準備するよ」
「ありがとうございます。では、二つ目」
 呟きながら、更に後へと下がる。リガードの瞳に怪訝な色が浮かんだ所で、はっきりと告げる。
「ファルシークとして、私は術が使えないと言いました。けれど、術を使えるシーカーが共に来ていないと言った覚えは有りません」

 朗々と告げた言葉に、リガード達の顔色が変わる。だが、既に手遅れだ。
 背後から、灼熱色の光が溢れ出す。同時に、青年の――クルトの咆哮が、月下に轟いた。
『ファイ・ストム!』
 巻き起こったのは、未曾有に降り注ぐ焔の豪雨。術士のクルトが好んで使う術の一つ。
 ――よし。
 アクトは内心で握り拳を作った。クルトは、初めから部屋の外に隠れていた。カードを破いたら詠唱を開始しろと伝えておいた作戦が、上手く行って何よりだ。不意を打てた為に、グロウの対処が遅れた。お陰で、これ以上ない好機が生まれた。
「リノウ、見ない方がいいよ。動けるようになったら、すぐに逃げて」
 リノウに忠告してから瞼を下ろし、アクトは三つ目の嘘に取り掛かった。

 ◆◆

『ファイ・ウォール!』
 グロウが人壁を覆い隠せるほどの焔の壁を作り上げる。焔のシェルターに身を潜めながら、リガードは怒り狂っていた。
 ――舐めた真似をしてくれた物です。
 必死に怒りを抑えながら、心で呟く。折角出してやった仏心を、あの子供は無下に扱った。育てた執事やメイド、最前列にいたロイドも殺したのだ。許される筈が無い。
「グロウさん。リノウを残して殺して下さい。別の男共々」
「当たり前だ!」
 象を狩る獅子を思わせる、噴火にも似たグロウの咆哮。仲間をも震え上がらせる咆哮に、リガードは満足しながら頷いた。グロウは殺しに慣れた人間だ。望み通り、苦痛を味あわせて殺す方法も熟知している。せめてその表情を見なければ、この溜飲は下がらない――
 やる気の無い声が聞こえてきたのは、そんな時だった。
「おーい、そのシェルターの中に居る糞どもー。黙りこくってるアクトに変わって、三つ目の言葉、教えてやるよ」
「おい、テメェラ。やるぞ」
 焔の雨が止むと同時に、シェルターを解除しながら、グロウが押さえ込んだ声で回りの執事達に呼びかける。リガードも男の話など、初めから聞いていなかった。だが、男は話し続けた。
「三つ目。ファルシークの言葉はほぼ全部嘘で、アイツは本物のファルシーク。そこのオッサンより位が高い『ブルーシーカー』なんだよ、本来は」
 焔のシェルターが解除される。外にグロウ達が飛び出していく――
「術が使えないなんてのも、当然ながら大ホラだ」
 青年の声と共に、地上にて新緑の光が膨れ上がった。リガードは、己の血の気が引く音を確かに聞いた。
 手の甲を新緑色に輝かせている少年が、凛と澄んだ声で、詠唱を宣言する。
『レィジ・ウィル・パルゥド』
 それが、リガードが最後に聞いた言葉だった。

 ◆◆

 術が効力を失くした頃、ダイニングはさながらギロチンが踊り狂った処刑場と化していた。
 男も女も、貴族も執事も、物も人も、肉も骨も、皮膚も脳漿も何もかもが混ざり合った塊が、鮮血に濡れて広がっている。解き放った術の影響で、頭上でシャンデリアがクルクルと、古びた鎖に悲鳴を上げさせながら廻っていた。
 斬撃を伴った風を無作為に、大量に発生させる、風の精術。発動させたのは久しぶりだが、威力と攻撃範囲は申し分ない。
 ――これで、発動までもう少し早ければなぁ。
「ぅぁぁぁああッ!?」
 気が触れた少女の悲鳴。嘔吐する音も聞こえてきた。今すぐ助けてやりたかったが――けれど、アクトに振り返る事は許されなかった。肉片の土壌の上に、傷一つ無く立つ鎧が居るから。
 内部のグロウが生きている事は、僅かに漏れてくる呼吸音から分かっていた。恐らく無傷だろう。木の机程度なら切断する事ができる風術も、一定以上の硬度を持つ物質には効き目が無くなる。風の術は元々、アーマーを相手にする為の術ではない。
「まーた厄介な野郎がいるな、おい」
 いつのまにか隣に来ていたクルトが、呆れ声で呟く。肩に長杖を乗せた、やる気の無い顔。
 アクトも躊躇わずに首肯した。
「俺は風しか使えないし、クルトは焔がメインの術士。アイツも焔の術を使ってたから、焔は効き目薄いんだよね」
「さっきみたいに、簡単な防御術で楽々防がれるからな」
 グロウが張った焔の幕は、発動まで一秒とかからなかった。不意を打った攻撃で簡単に防御が間に合っては、まともに対峙して通じる筈も無い。
「挙句の果てに武器がナイフと杖じゃね。逃げたいんだけど――」
『――この糞ガキァァァ!』
 鎧が咆哮し、大気が震えた。素直に逃がしてくれる程、生易しい相手ではなさそうだ。
 大体、動けないリノウを担いで逃げ出せるとは思っていない。見捨てる選択肢は、始めから存在していない。
「逃がしてくれそーも無いわな。ていうか、本当に逃げるつもりなら、わざわざあの子助けてないしな。どーするよ?」
 グロウの咆哮に震える事も無く、平坦な声でクルトが聞いてくる。アクトはナイフを引き抜きながら彼に答えた。
「動きを止めて上から潰すしかないだろうね。隙見つけたら宜しく、って事で上行って」
「よし来た」
 全て理解したらしいクルトの応答。クルトが少し回り込むようにして、二階への道を探しに行く。
 クルトの行動が見つからないように、足音を立てて走り出す。
『小僧ォォォッ!』
 血飛沫に濡れた鎧が吼えた。膨れ上がった殺意を真正面から受け止めて、アクトはグロウへと突撃した。

最終戦、開幕――
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by sora_hane | 2008-08-30 02:05 | 小説
 バケツの水を排水路に捨てる勢いで、ミルクが少女の胃袋へと流れ込んでいく。九杯目のバケツグラスを何の躊躇いも無く空にしていくのは、レストの中では恒例の光景なのか、客もマスターも驚く事は無い。異常だと思える理性を残しているのは、アクトだけらしい。
 ――誰でもいいから早く来てくれ……。
 隣でオレンジジュースを啜りながら、アクトは心の中で呟いた。少女が帰ってくる予定時刻である四時までは、まだ暫くの時間がある。にもかかわらず、アクトの財布の中身と、リノウが飲んだミルクの会計を比べてみれば、既に払える限界のラインへと辿り着いている。これだけ飲めば十分だと思うが、もしこれ以上お代わりを頼まれたら――
「ぷはー。マスター、もう一杯」
「止めて。経費で落とす前に、手持ちが尽きるから」
 口周りの牛乳を拭い、何食わぬ顔でお代わりを注文するリノウに、アクトは半眼で言った。
 えー、とリノウは不満そうに呟いたが聞き流す。これ以上頼まれたら、本当に金が払えなくなる。
「第一、リノウが始めから金を持ってこないのが間違ってるだろ。大富豪の娘が、どうして一文無しで街をぶらつくかな」
「お小遣い貰ってないもん、仕方ないじゃん」
 リノウは呟きながら、グラスの底に残ったミルクを意地汚く吸い上げている。容姿や行動がどう見てもお嬢様の物では無い事に、彼女は気がついているだろうか。
「それよりさ、今日って結局何をするの? 犯人の逮捕、って事は分かってるけど、ボクは具体的に何をすればいいの?」
「……やっぱりお代わりしていいから大人しく――」「待たないからね」
 猛禽類を思わせる鋭い眼差し。例え両足を手錠で縛った所で、手錠を引きちぎって追いかけてくると分かる眼。
 アクトは説得を諦めて、カウンターに現場の地図を広げた。
「いいかい? 今回の現場は、大通りを一本奥に入った場所にあって、人目にはつきにくい。人通りは殆ど無く、道の先には数件の民家があるだけだ」
 地図の中心に指を置く。リノウが頷いたのを見計らってから、説明を続ける。
「この道は脇道こそ少ないけど、隠れる場所は幾つかある。犯人達はそのどこかに潜んで、民家に住む女性を狙ってる」
「うんうん……それで、ボク達は何をするの?」
 リノウが楽しげに――この非日常を楽しんでいるのだろうが――言う。指の位置をずらして、昨日訪れた場所を示す。
「俺達の目的は、女性に襲い掛かる犯人を捕まえる事。けれど、この道のどこで女性が襲われるかは分からない。だから、俺達とグロウさんは昨日のここで待機して、餌にかかるのを待つ。まぁ、その人が戻ってくる時間は決まってるらしいから、そんなに待ちはしないだろうけど」
 アクトは壁掛け時計を見上げた。女性が戻ってくる四時まで、後二十分程か。
「餌にかかったら、速攻で捕らえる。全速力で飛び出して、女性に危害が加えられる前に終わらせる。そこから先は、俺の仕事」
「仕事って?」
「事件解決、だよ。これだけ大規模な蒸発が起きてるって事を考えると、実行犯とは別に、事件を起こしてる黒幕がいると思う。そいつらを探し出す」
 ――それから、ファルシークとしての仕事も、ね。
 最後は言葉に出さず、心の中でのみ呟く。リノウに知られるのは、何があっても避けたい。
「そっか……ボクも勿論手伝うよ! 今日がこの街に居る最後の日なんだから!」
 握り拳を作って、リノウが真剣な表情で言う。そんな少女に向けて、アクトはかねてから感じていた疑問を問い掛けた。
「あのさ……何でリノウって、旅に出ようって思ったの?」

 リノウがきょとん、とした表情になる。
 彼女は、初日の説明だけで全て説明できたと思っていたのかも知れない。
「えっと……色んな物を見たいから――」
「それだけじゃないだろ?」
 アクトは少女の瞳を見据えた。
「田舎街に住んでる世間知らずのお嬢様が、お供も付けずに旅に出る。俺がリノウの父親の立場だったら、絶対に許してない――相当の理由が無いとね。旅に出る理由が世界が見たい、ってだけじゃないとは思ってた。良かったら、教えてくれない?」
 わざわざ考え直すまでも無い、当たり前の話だ。親でない人間であっても、簡単に思い浮かぶ疑問だから。
 リノウは悩むように表情を曇らせた。多少うめき声を上げながら、天井を見上げている。アクトはその間、何も言わないでおいた。無理やり聞きだして良い話でも無い。あくまでリノウが決める事だ。
 そして、時計の長針が9の文字盤を通り過ぎた後――少女は消え入りそうな声で呟いた。
「ボクと、父さんと母さんって、年が離れてるの分かるよね」
 記憶の中から、四日前に出会った彼女の両親を思い出し、頷く。初老を少し過ぎた白髪の紳士と、皺が浮かび始めていた貴婦人。リノウの年はどれだけ高く見積もっても、自分と同年代でしかない。親子、というより孫と言ってもいいほどの年の差が合った。
 更に、
「髪の毛の色もも違うしね。リノウは金髪だけど、フィルト家夫妻は黒髪。リノウとフィルト夫妻、実の親子じゃないんだろ?」
 黒髪の両親から、金髪の子供が生まれる訳も無い。つまり、遺伝の関係上、リノウがあの二人の実子とはなりえない。
 リノウは寂しげに笑い、頷いた。
「ボクと父さん、母さんが実の親子じゃないって事は、十三歳の時に知ったんだ。それまでは無邪気に信じてたんだけどね、親子って」
 話したら、何かがすっきりしたのかも知れない。彼女は上機嫌そうに笑って、続けた。
「ボクね、五歳より前の記憶が無いんだ。父さんの話だと、この街の中で行き倒れてた、って言ってた。そこで父さんと母さんは、ボクを助けてくれて、育ててくれた。この恩は一生かかっても忘れられないよ」
「だけど、昔の事が知りたい。本当の両親は誰なのか。どんな子供だったのか。どうして捨てられなければならなかったのか――だから?」
「うん」
 気負いの無い、本心がそのまま吐露されたような返事だった。
「見つかるかもわかんないし、生きてるのかも分かんないけどね。気にしちゃったら、もう知らないまま居たくないんだ。何があったのか、知りたいんだ」
「……実の娘でもないのに、リノウをここまで育てた、か」
 ジュースを飲み込みながら、ポツリと呟く。どうしてリノウがここまで自由に育ったのか。子供っぽいままで、両親が旅に出る事を許可したのか――今まで疑問だった事が、やっと腑に落ちた。
 最も、リノウには聞こえなかったらしい。彼女は空気の音しかしなくなったストローをくわえたまま、
「父さんと母さんには、ずっと感謝してるんだ。この街に残った方が、きっと喜んでくれるとも思うけれど。やっぱり、抑えきれないんだ。知りたいんだ……ボクが旅に出るのは、そんな理由だよ」
「成る程ね。ありがとう、大体納得できたよ。けれど、流石に護衛無しで旅立つのは無茶じゃない?」
「大丈夫だよ! 近づく人は皆敵だって教わってるから!」
「その敵である俺に、そんな笑顔向けてどうするんだよ」
 半眼で呟くと、リノウが分かりやすく石化する。アクトは心より呆れながら、同時に笑った。
「旅立つの見直したら?」
「ヤダ!」
 小気味よい即答。絶対に自分の意思は曲げない、とはっきり分かる声。子供が我侭を通そうとしているだけにも聞こえるが。
「ま、決めるのはリノウだからね。どうしても行くって言うんなら止めやしないけど……あぁ、そういやまだ、話して無かったね。全然」
「え、何を?」
「旅人としての経験とか、心構えとかそういうの」
 残っていたジュースを一息に飲み干してから、時計を見やる。まだ、来るまでには数分ほどの時間は有るか。
 ――なら、これ位伝えても許されるだろ。
「これは旅人として、って言うよりはシーカーとしての言葉なんだけどね。必要と有れば全てを騙せ、って言葉がある」
「……凄い言葉だね。そんな世界なの、外の世界って?」
「いや、これは俺の師匠が特別だっただけだと思うけど。けれど、それ位の覚悟は必要だと思うよ。近寄ってくる人間は皆敵だって言う教えも、あながち間違った物じゃない。それでもなお、リノウは外に出て行きたい?」
 貫くように少女を睨み据える。リノウは瞳を逸らす事無く、瞬きする事も無く、見つめてくるだけだった。
「ボクは探しに行くよ。知らないままで居たくないから」
「シーカーを使って探して貰う、って事は――」
「ボクが、ボク自身で見つけたいんだ。ボクが調べて、ボクの目で知りたいんだ」
 揺るぎない、強き声。鋼の如き信念を持って歩き出す者の言葉だ。
 ――何があっても、折れそうに無いな。
 僅かに苦笑して、先に瞳を逸らす。この意見を変える事は、何人にもできそうにない。
 アクトは質問を変えた。
「それで、始めに行く場所は決めてるの?」
 リノウの気配が少し遠くなった気がした。そんな事も考えていなかったらしい。
「えっと……と、とりあえず首都に行って――」
「それから? 長く旅をするんなら、その為の資金も居るよね。何より情報を漁るなら、宿に泊まるよりはどこかに家でも借りた方がいい。また、情報の漁り方も全部練習しないといけない。真偽の確かめ方も理解しないと、嘘の情報に踊らされるよ?」
 苦しそうに答えたリノウに、追撃の言葉を投げかける。ちらりと横目で見やると、彼女は力なくカウンターにうなだれていた。何も考えてなかったらしい。
「で、もう一度聞くよ。これだけの事、考えてた?」
「……全然」
 消え入りそうな声で、リノウが呟く。涙声に聞こえたのは、気のせいではなさそうだ。
「そんな状態で出ても、話にならないよ。何か手がかりを見つけるより早く、フィルト家に帰ってくる事になる。それでも、リノウは外に行く?」
 リノウはカウンターに沈んだまま、短く頭を上下させた。ここまで来ると信念というより、ただの頑固者と言った方が良さそうな気がしてくる。けれど、彼女が心を変えないだろう、という事だけは確実だ。
 なら、してやれる事は一つだけだろう。
「リノウ。シーカーの旅についてくる気はある?」
 リノウが突っ伏していた顔を上げて、怪訝そうな顔を向けてくる。アクトはニヤリと笑いながら、分かりやすく要約した。
「俺の旅について来るか、って事。子供に過ぎないけど、これでも世界を飛び回ってるから、情報も手に入る筈。何より、一人旅ってのは暇なんだ。話し相手ができるってだけで、俺としても嬉しいし」
「良いの!?」
 どんぐりの森を見つけたリスのように、リノウが喜色に溢れた笑顔を見せる。アクトは笑いながら大きく頷いた。
「リノウがそれを望むなら。今まで何も話してあげられなかったからね。まぁ、事件が解決できてからの話だけど」
 ――できる限り、リノウはこっちに引き寄せておいた方が楽だし。
「勿論ついて行くよ! アクトとなら、楽しそうだし!」
 リノウが実に楽しげに言う。何もかもを信じるような、旅人とは程遠い笑顔で。
 本心を顔に出さず、微笑みと共に右手を差し出す。
「数日間だけの筈が、長い付き合いになりそうだけど。宜しくね、リノウ」
「こちらこそ!」
 リノウが純粋な笑顔と共にその手を取る。笑顔の仮面で心を覆ったまま、アクトも彼女と硬い握手を交わした。


    ◇◆◇


「――以上。理解してくれたな?」
 潜んでいる細道の中で、説明を終えたグロウが念を押すように告げてくる。アクトは、リノウと共に短く頷いた。
 グロウがプロテクターと巨大な剣を装備してレストにやってきたのは、約束の時間に一秒と違わなかった。性格的にはかなりキッチリとした人間かも知れない。
 その後は予定されていた通りに、店の裏口を通って細道に出て、その場でグロウから作戦を教えられた――まぁ、作戦は聞いていた物と同じだったが。
「よし。なら、飛び出す前に確認しておきたいんだが……坊主と嬢ちゃんは、術は使えるか?」
 グロウが真剣な表情で呟いた事を、アクトは静かに否定した。
「残念ながら、精術は使えません。リノウも術を扱う修行は受けていないでしょうから、私達は二人とも使えないと判断して下さい」
「ったく。お前みたいな奴がどうしてシーカーになれたんだかな」
 心から呆れ果てた様に、グロウがうめき声を上げる。表情を不満そうに歪めたリノウの前で人差し指を立ててから、すみません、と小さく謝った。
「グロウさんは使えるんですね?」
「炎を使える。対した物じゃねぇけどな、人一人殺す位はできる。不用意に俺の前、飛び出すなよ」
「分かりました――それじゃ、そろそろ」
 その言葉だけで理解してくれたようだ。グロウは頷きもせずに、細道の出口へと移動した。アクトもリノウと共に、音を殺して彼に続く。
「アクト、頑張ろうね。グロウさんにあんな事言わせてないで、さ」
「俺が半人前なのは事実だから、何も言い返せないよ。今はとりあえず、結果を出す事だけを考える」
 リノウに小声で返してから、アクトも細道の出口で足を止めた。グロウと逆側の壁に立ち気配を殺し、裏道に視線だけを投げる。五人の男達が、道端に転がっていた粗大ゴミの裏手に居た。
 彼らに一番近いのは、アクト達の組らしい。間合いまで、十歩も無い――リノウにも活躍して貰う事になりそうだ。
 同時に、彼らが待ちわびているらしい女性の姿も、裏道の方に見えた。転がっているゴミを避けて、気負いの無い足取りで歩いてくるのがハッキリ見える。あの調子で行けば、一分もすれば男達の傍を通り過ぎる。
「……緊張するね」
「こればっかりは場数踏んでもどうしようもないしね。一分もすれば、全部始まる。覚悟しときなよ」
 アクトは左手をそっと差し出して、リノウの手を軽く握った――緊張で震えていた掌を。予定外の動きをされては、全ての作戦が泡に帰すから。
 テクテクと、女性が近づいてくる。男達が、動き出す構えを取り始める。アクト達はまだ、動かなかった。
 粗大ゴミを遠回りするように、女性が歩いてくる。男達が行動の準備を終える。アクトは走り出す構えを取りつつ、リノウが飛び出さぬようにその手を強く抱きしめていた。
 待ち受ける困難も知らず、女性が粗大ゴミの傍を歩いていく。現場に緊張の糸が張り詰める――
 そうして。
 女性が粗大ゴミの傍を抜けると同時に、男達が一気に飛び出した。シーカー達が動き出したのも、同一のタイミングだった。

 男達が、一斉に彼女を取り囲む。声を上げる時間すら与えずに、一人の男が手刀で女性を昏倒させた。そこで、男達が左右を見回した。目が合った。
 アクト達に気付いた瞬間に血相を変え、女性を残したまま、男達が裏道へと逃げていく。だが、遅い。
 アクトはポケットに手を入れ、投げナイフを引き抜いた。投げつけ、最後尾を走っていた小太りの男の足首を打ち抜く。
「ギッ」
 引きつった悲鳴と共に、男がその場に倒れ落ちた。男達は立ち止まる事無く、一目散に逃げていく――
『ファイ・ストレ!』
 その男達に、人間大の火の玉が襲い掛かった。焔は一人に直撃し、悲鳴ごと男を飲み込む。男を地上に倒し、焔が爆散。後には煤焦げた人間だけが残っていた。かろうじて生きてはいるようだが、もう動く事はなさそうだ。
 これで、残り三人。このまま行けば軽く間に合う――筈だったのだが。残った三人の内の一人が不意に立ち止まり、こちらを睨み据えて来た。盾になるつもりらしい。
 アクトは短く舌を打った。振り向いてこなければ、全員順々に撃ち抜いたのだが。十数秒も時間が取られるとすれば、少し面倒な事に――
「アクト、グロウさん! 先に行って!」
 真横のリノウが吼えたのは、そんなタイミングだった。
 リノウを一人で戦わせる。一番想像したくなかった、最悪の申し出だ。戦闘を知らない少女を一人で戦わせる。余りにも危険すぎる。怪我で済むか、それすらも想像がつかない。
 けれど、問答を繰り返す時間は無い。
 ――仕方ないか。
「怪我するなよ!」
「うん!」
 小気味良くテンポ良い少女の返答。倒れ伏してうめき声を上げる男の顔を踏み潰しつつ、立ちはだかる男の横を駆け抜ける。リノウの睨みが利いているようで、男は追ってこなかった。
 ――怪我しないでくれよ、リノウ……!
 内心で叫びながら、先へと走り去る男達を睨み据え、アクトは一層早く駆け出した。

少女の戦――
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by sora_hane | 2008-08-30 02:04 | 小説
 起きたら、暖かいベットの中だった。可愛らしいヌイグルミに囲まれた、フカフカのベットの中だった。
 どうしてこんなベットに居るのか、ボクは何も分からなかった。どうやってベットに入ったのか、何も知らなかった。
 ――ここ、どこ?
 ――あぁ、起きたかい、リノウ?
 ボクの上から、声がした。顔を上げて、上を見た。知らない人が、ニコニコと笑っていたのが見えた。天使みたいな優しそうな人だった。
 ――おじさん、誰?
 ボクは聞いた。ボクの名前を知っているけど、ボクはこの人を知らないから。
 その人は、ボクの頭に手を乗せて、優しい声で答えてくれた。
 ――君の父親だよ、リノウ――

「――リノウ! 起きなさい、リノウ!」
「ひひゃいっ!」
 怒鳴り声に鼓膜を殴られて、リノウは反射的に上体を起こした。
 慌てて左右に頭を振って、声を上げた人間を確認する。けれど、周りには誰も居なかった。
「あれ?」
 首を傾げる。途端に、ため息が聞こえた。
「後ろよ、後ろ」
 声に指示されたままに、体を向けてみる。恩師が呆れ顔で立ち尽くしていた。
「あ、先生。おはようございますー」
 リノウは朝の挨拶と共に、ぺこりと頭を下げた。それから、頭を上げて大きく欠伸をする。今までずっと寝ていたのに、何だか酷く眠かった。
 ――にしても、懐かしい夢だったなぁ……何で、急にこんな夢見たのか、わかんないけど。
 軽く背筋を伸ばしながら、夢の中身へと考えを飛ばす。とても懐かしく、暖かい夢だった。初めて、両親と出会った日――リノウの記憶が始まった日。
 今、こうして生きているのも、あの日に両親と出会えたからだ。
 ――感謝してもしきれないや、父さんと母さんには……。
「おはよう、はいいのだけれどね。どうして、机で寝るかしらね」
 昔を思い出していると、先生の凍りついた声が飛んできた。
「机?」
 とりあえず、姿勢を元に戻してみる。長年使い続けてきた木の机と、涎がついてた教科書が目に付いた。
 腕を見てみると、頭が載っていたような跡が残っている。本当に机で寝ていたらしい。
 ――あれ? ボク、何でこんな場所で寝てたんだろ?
 昨日、何が有ったのか思い返す。しかし、答えになるような記憶は何一つ蘇ってこなかった。昨日何をしていたのかさえ覚えていない。
 後から、嘆息が繰り返される。バツの悪い思いで、リノウはフィーナを振り返った。
「先生、ボク、何でここで寝てるの?」
「昨日の徹夜勉強、忘れたの?」
 その一言は、暗闇の中でランプを灯すように、記憶の闇を一瞬にして取り払った。勉強をサボってアクトに付きまとった結果、最後に捕まって、次の朝になるまでずっと勉強させられていた事を。その時、今日からは勉強を夜からだけにしてくれる、と言っていた事も――
 アクトの所に行ってもいいと、言ってくれた事も。
「出て行くとき、ベットで眠るように言ったんだけどね。まさか灯りも消さずに、机で寝てるなんて思わなかったわ。ロイドさんに入らないであげて、なんて言うんじゃなかったわね」
 呆れ声でフィーナが呟く。リノウは少し頬を膨らませた。
「しょうがないじゃん、ボクだってこんな時間に寝るの初めてなんだし。テスト中もずっと眠かったもん」
 ――テスト中に、っていうか勉強してる間ずっとだったけど。
 正確に言えば、テストに入る前から、時々記憶が飛んでいた。きっと、その間は眠っていたのだろうと思う。こんな事言ったら、説教だから言わないが。
 折角アクトと会う時間をくれたのだから、今は存分にそれを楽しまないと――
「まぁ、次からはこんな事が無いように気をつけなさい。それよりいいの、アクト君の所に遊びに行かなくて? あまり時間無いわよ?」
「え――先生、今何時?」
 何か嫌な予感を覚えながら、呟く。フィーナはあっさりと答えてきた。
「もうそろそろティータイムね。三時前かしら?」
「嘘!?」
 座っていた椅子から跳ね起きて、閉じられていた雨戸を開く。太陽は南と西の中央にあった。
「今日の勉強は七時から始めるわね。それまでに戻ってきて、ご飯食べないと夕食抜きでやるわよー」
「い、今すぐ行ってきますー!」
 リノウは大声で叫びながら、追い立てられるように自室を後にした。服装が、兎が描かれた寝間着だという事も忘れて。

 数時間後、アクトに出会えなかった上に、夕食抜きで勉強をする羽目になって、机の上で泣いているリノウの姿がそこにあった。




 安宿に併設されている食堂は、常日頃と変わらぬ客の入りだった。ホールに入りきれないほどの客が来るわけでもなく、閑散としている訳でもない。
 そこに集まった客の一人であるアクトは、朝食である卵サンドに手を伸ばしながら、対面のリノウの話に耳を傾けていた。
「――って事なんだよ、昨日は。ホント、疲れたよー」
「馬鹿だねー」
 昨日、リノウが来なかった理由を、一通り聞かされて、アクトは笑いながらそう答えた。
 三時まで机で眠り続けて、起きたはいいけどパジャマのままで外に飛び出して、そして全部徒労に終わって、食事抜きで勉強をする事になった。これを笑わずして何を笑えというのか、と言い切れるほど馬鹿らしい話だ。
 けれど、彼女にとっては笑い話では済まなかったらしい。リノウが机を叩き、叫んできた。
「そんなに笑わなくたっていいじゃん! 本当につらかったんだから!」
 確かに、彼女には厳しい事だったのかもしれない。リノウの瞳には、若干涙が見えている。だが、ハンバーグカレーを高速で食べながら言われても、そのつらさは余り伝わってこなかった。
「つらいのは良いけど、話す時ぐらいスプーンを止めなよ。カレーはどこにも行かないからさ」
「お腹空いてるんだよー、何も食べて無かったから! それより、今度はアクトの番だよ! 昨日、ずっと何してたの?」
「この前言った通りだよ、ずっと現場を回ってた。幸い、ビニンの街はそんなに大きくなかったからね。昨日で殆ど回れたよ」
「へー……犯人とか、何か分かったの?」
 アクトは短く頭を振った。
「生憎、まだ分からない。人通りが少ない路地や、その周辺で行方を絶ってる人達ばかりだけど、どうやって女性達を隠したのかが全く分からないんだ」
 アクトは両腕を組んで、軽く背筋を逸らし、天井を見上げた。
 二ヶ月間もの間、警察がこの事件を解決できていないのは、どこまで行ってもその答えが見えてこない為だろう。発生場所からの逃走経路を考えれば考えるほど、不可能犯罪になっていく。
 警察の目を盗んで、女性一人を運ぶ。その行為自体が、ほぼ不可能だ。事件現場の周囲には、網を張るように警官達が巡回を行っている。模倣犯は全て、女性を運んでいる所を見つかって捕縛されている所からも、警戒の高さが窺える。
 事件現場の周囲には、民家が多い。その民家の幾つかが協力者の家だと考えても、発生現場はほぼ全てバラバラだ。警察に見つからぬように動いたとしても、二十以上の家が必要になってくる。第一、家に匿うとしても隣近所に怪しまれれば、その時点で隠し場所になりえない。無論、全ての事件現場から辿り着けて、なおかつ警官の巡回範囲に入らない場所などない。
 ――こういう事件だから、ロブさんがあんな高額を出したんだろうな。
 ビニンの警察隊副隊長の姿を思い浮かべ、苦笑する。彼は頭脳的な人間と言うよりは、明らかに肉体派の人間だから。
「それじゃ、今日はどうするの? 別の方法使って、答え探すの?」
「いや、現場を見て回るよ。まだ幾つか行ってない場所があるし」
 テーブルに残っていた最後のサンドを掴み、口に放り込む。咀嚼したそれをジュースで飲み込んでから、アクトは席から腰を上げた。
「それじゃ、そろそろ行こっか。どうせついて来るんだろ?」
 念のために聞いておいたが、聞くだけ無駄だというのは分かっていた。ついて来るつもりで無いなら、初めからここには来ないだろうから。
 案の定、リノウは楽しげに笑いながら、大きく大きく頷いた。
「勿論、ついていくよ! あ、その前に――」
「お代わり以外ならいいよ、何?」
「……うぅん、何でもない」
 リノウが不満そうに呟き、席を立つ。アクトは小気味良く笑いながら、伝票を手に取った。

 ◆◆

 アクトに先導されて、始めに連れてこられた事件現場は、アクトの宿から一時間ほど歩いた場所だった。彼が話してくれたままの寂しい通りで、住宅街と大通りの中間にある道だ。拉致して逃げるには良い場所みたいだ。
 でも。
「この場所って、逃げ場所無いよね?」
 何度も言われていた事だけど、リノウは改めてアクトに尋ねた。
 地図を見せてもらったから分かるが、この先は袋小路になっていた。道は激しく曲りくねっているけど、身を潜める場所も逃げる道も無い。少女達を閉じ込めておける倉庫がある訳でもない。そして、ここから大通りまでの道のりも一本道だ。途中で逃げる場所もないし、隠れる場所もない。
 彼もあっさりと頷いて肯定した。
「ここと大通りの間も、確か警官が巡回してたんだよね?」
「あぁ。最近だったから、大通りとの入り口に一人張ってた。その警官は、少女が路地に入っていったのは見てた。他の人は、誰も入っていかなかった」
「で、何で消えたって分かったの?」
「一時間後に、帰ってこない娘を心配した両親が路地から出てきたんだって。そこから発覚」
「どういう事なんだろ? 分かんないよー」
 リノウはうんざりと頭を振った。
 逃げ道も隠れる場所もない所で、少女が一人蒸発した。誘拐どころか、少女が一人で消える事もできないような場所の筈なのに。
「その警察官が嘘をついてて、誘拐犯たちが普通に運び出したっていうのは?」
 証言が全て嘘だったと考えれば、答えは凄く単純になる。けれど、それもアクトが力なく否定した。
「俺も始めはそれを考えた。けど、例え嘘ついてたとしても無理なんだよ。発生したのが日が暮れる前で、帰宅ラッシュのピーク。道を歩いている人に目立つし見つかる。蒸発事件が世間にも広まってたから、一発でアウト」
「うー……アクトは何か分かんないの?」
「分かってたらこんな場所で途方に暮れてないよ」
 最もな言葉だった。リノウはアクトと共に、二人で深い溜息を吐き出した。まるで、出口が壊された迷路に迷い込んだ気分だ。
 陰鬱と淀んだ空気の中で、しかし、アクトは気分を切り替えるように、背筋を伸ばしてかぶりを振った。
「ま、ここにいても仕方ないよ。とりあえず、他の場所を回ってみよう」
「……そうだね。他の場所で、何か思いつくかもしれないしね」
 リノウが気休めに呟くと、アクトもそうだね、と答えてくれた。特に期待している声ではなかった。

 結局、気休めは気休めに終った。残されていた数ヶ所を回っても、つくづく不可能犯罪としか言えなくなってしまっただけだった。



 乾いた土が水を飲み込むように、バケツグラス満杯に注がれたミルクがリノウの体へと消えていく。「レスト」のマスターは全てを分かったように、二杯目を無言で作っている。どうせ支払う事になるのだろう、大量のミルク代を思いながら、アクトは嘆息をジュースで呑み込んだ。
 リノウは二杯目を受け取って、グラスにストローを入れてから、答えが存在しない問題を出された学生のような声を上げた。
「どういう事なんだろうね」
 アクトはさぁね、と生返事を返した。最も、彼女が悩む理由が分からない訳ではなかった。
 あの後回った全ての現場の、全ての光景。その半数以上の現場で、女性達を拉致するのは不可能だという答えが出た。何度も地図と、道筋と。警官の行動経路と、方法と。何もかもを、二人で考えた。けれど、リノウと共に手に入れた情報から導き出されたのは、不可能の三文字しかない。
 そんな状況が、今、現実に起きている。リノウでなくとも、頭を抱えるという物だ。
「昨日回った所も、大体似たような感じだったの?」
「そうだったよ。ここまで見つからないとなると、見落としてる道でもあるのかも知れないね」
「つくづく、どうしようもないね」
 リノウが肩を落として、力なくストローを吸う。心から、悩んで、考えてくれているらしい。関係の無い筈の事件なのに。
 ただ、彼女が損得で動く人間ではないのは、数回話しただけでも何となく伝わってきた。困っている人がいる、事件が起きている。ただそれだけで、リノウが首を突っ込む理由になりうるのかも知れなかった。
「なんだい、リノウちゃん。かなり凹んでるねぇ、どうかしたのかい? それに、アクト君も浮かない顔だね」
「あれ、そんなに落ち込んでる風に見えました? 隠していたつもりでしたが」
 アクトは顔を上げて、話し掛けてきたマスターを見やった。表情には出さないようにしていたつもりなのだが、彼にはばれていたらしい。
「長年こういう仕事やってるとね、ちょっとした変化に気付くようになるんだよ。リノウちゃんに比べて分かりにくかったけどね」
「リノウみたいに分かりやすかったら、シーカーとして問題有りますよ」
「アクト、どういう意味?」
 真横から叩きつけられる殺意を無視して、素知らぬ顔でジュースを啜る。リノウは暫く睨み続けていたが、最後には諦めたように視線を戻した。
「あぁ、そういえばアクト君はシーカーなんだってね。昨日、ここに来てたロブさんから聞いたよ。何か、探し物でもしてるのかい?」
「最近、この街で色んな女の人が消えてる事件が起きてるでしょ? アクトは、その捜査の為にストラグルから来たんだってさ」
 ストローをくわえたまま、リノウが答える。マスターも知っていたらしく、あぁ、と思い出したように軽く手を打った。
「また凄い事件を調査してるんだね、アクト君。だが、その表情じゃ、解決には程遠いみたいだね」
「そーだよー、全然分かんないよー……犯人も見つからないしー」
 グラスの水位を下げながらリノウがうめく。アクトも何も言わず、ただ溜息を吐き出した。
 ――カラァン。
 と、出入り口の扉に取り付けられたベルが鳴った。リノウと共に、視線だけ振り返る。
 途端、リノウが驚いた風に目を丸くした。
「あ、グロウさん! 珍しい所で会ったね!」
 リノウが声をかけると、初めてこちらに気がついたように、グロウが視線を投げてきた。
「嬢ちゃんか。それに、小僧。いい所で会った」
 ――いい所?
 アクトはリノウと顔を見合わせた。いい所も何も、喫茶店の何が良いのか。が、困惑する二人には構わず、グロウはカウンターに近づいてきて、
「マスター。悪いけど、裏口から外に出してもらえないか?」
「あぁ、構わないが。グロウさん、何か見つけたのかい?」
 彼は多少興奮した声で、
「この店の裏で、妙な男達が集まってる、って聞いたんだよ。探り入れとこうと思ってな」
「男? もしかして、犯人――」
 アクトは掌でリノウの口を塞いだ。
「喋り過ぎないようにね、リノウ。グロウさん、それはどこからの情報ですか?」
「警察からだ。三日前に目撃情報が有ったって、下っ端の警官から教えられた」
 ――三日前?
 ふと、疑問が浮かぶ。けれど、それが形を為す前に。
「それ、ボクらに教えに来てくれたの?」
 掌を剥がして、リノウがグロウに問い掛ける。彼は即座に頭を振って否定した。が、すぐに笑みを浮かべると、
「小僧と出会ったら、教えようとは思ってたけどな。だから、いい所っつったんだよ。来るんだろ、小僧?」
 無論、その申し出を断る理由など、アクトにある訳がなかった。

 グロウが先に行った裏口から、音を殺して外に出る。人が一人通れるかどうかの細い道だ。その奥に別の道が見える。
 アクトは静寂に同化し――
「あ、ちょっと待ってよー!」
 けれど、後から静寂を粉砕する足音と声が追いかけてきて。アクトは溜息を吐いて、静寂を維持するのを放棄した。
「あのさ、リノウ。静かにしてろ、って言ったよね?」
「アクトがいきなり飛び出すからじゃん! ちょっと位ゆっくり行ってよー!」
 不満そうにリノウが叫ぶ。一秒前の言葉も理解してくれてないらしい。アクトは肩を落として、一言だけ呟いた。
「分かったよ……分かったから、何も言わないように」
「はーい」
 ――いいや、もう。
 色々と諦めて、歩みを再開する。と行っても、裏道に出る場所――グロウが先に張っていた場所までは、すぐに辿り着いたが。
 細道の角から僅かに顔を出し、裏道を確認する。今までと似た、人通りの無さそうな道だ。新聞紙も転がっていない綺麗な道だが、それはここを歩く人の数が少ない、とも言えるだろう。
 その道の一角、細道の反対側に、数人の男が集まっている。判でついたように人相が悪く、怪しさは抜群だ。それが集まって、小声で何か話している。
「あの人たちかな?」
 隣から顔を覗かせて、リノウが呟く。アクトは彼女の口の前で、そっと人差し指を立てた。
「嬢ちゃん、静かにしてくれ……」
 グロウからも呆れ声で言われ、リノウがむっと膨れながら口を噤む。少女が声を消した所で、意識を耳に集中させる。
「……ぁ、明日、ここ……四時に、女を拉致……逃げるのは、いつも……」
 途切れ途切れでは有るが、声が聞き取れなくは無かった。そして、断片から計り知れる言葉の内容は、明日の行動を決定させるのに十分な内容だった。
 ――ま、これで十分か。
「グロウさん、先に」
「ん、あぁ。分かった、俺はもう少しここにいる。ジョグさんに、何人か腕利きよこすよう言っといてくれ」
「分かりました。戻るよ、リノウ」
 必要な情報は手に入った。アクトはグロウに呟きかけてから、リノウにそっと耳打ちし、その手を引いた。
「え? アクト、あいつらは?」
「放っておくよ。今は見つからない内に、さっさと帰らないとね」
「え、え、何で? あいつら、犯人――」
 反射的にリノウの口を右手で抑え、半眼で少女を睨みつける。叫ばれるのは、余りにまずい。グロウからも冷たい視線がリノウに注がれていた。
 リノウもその事に気がついたのか、叫ぶ気配が消える。アクトは安堵の息を吐いてから手を離し、小声で呟いた。
「今は、まだ事件が起きてない。今襲い掛かっても、女性達がどうなるのか、何も分からないだろ? だったら、明日わざと事件起こさせて、その時に捕まえた方がいい。それに、こっちも味方が欲しいから準備しないとね。後、頼むから人の話聞いて」
「ご、ごめん……」
 リノウが雨に濡れた子犬のように縮こまって、小さな声で謝ってくる。アクトはもう一度嘆息して、それから、苦く笑った。
「まぁ、リノウの性格考えたら仕方ないしね。今度から気をつけてくれよ」
「う――うん」
 叫ばなくなっただけ、一歩前進と言うべきか。アクトは苦笑しつつ、グロウを残してその場を去った。

移動中……
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by sora_hane | 2008-08-30 02:03 | 小説